厚生労働省が発表した平成30年の人口動態統計のデータでは、2016年から出生数が100万人を下回っているということで人口減少が問題視されています。
将来の日本の経済力の低下や社会保障が破綻するのではないかという懸念がされていますが、年々下がる出生率にようやく政治家も重い腰をあげ、少子化に対して本格的な対策を考え始めました。
人口が多いことは良いことですが、中国のような人口爆発で結果一人っ子政策がとられるといった人口の抑制が行われている事を考えると、単純に人口が多ければ良いというわけではないかもしれません。
しかし、日本のように少子化の影響が将来的に色濃く出ることを考えれば、適度な人口の維持は必要です。
それは経済的な理由から言われることが多くなっていますが、「人口がどのように経済に関係しているのか?」また、「今後の日本で人口減少が続けばどうなるのか?」というのを説明しつつも、人口減少から経済に対してどのように影響を及ぼすのか、人口と経済の関係を今回の記事では説明していきたいと思います。
そもそも少子化問題とは?
少子化とは、生まれてくる子供の数が減って出生率が低下することを表した言葉です。
日本でこの言葉が言われ始めたのは、1992年に出された国民生活白書です。
そこに記載されていた出生率の低下やそれに伴う家庭・社会で子供の数が低下傾向なことを「少子化」と呼び、それに伴い子供や若者が少ない社会を「少子社会」と表現されるようになっています。
日本は高齢者が多く、子供・若者が少ないということで「少子高齢化社会」とも2000年代になって言われるようになりましたが、これは知っている人が多いはず。
日本では15歳~49歳までの間に女性が年齢別に出生率を合計したものを合計特殊出生率と呼び、1人の女性が仮に年次の年齢別出生率で一生の間に有無としたときの子供の数に相当します。
この「合計特殊出生率が人口を維持するのに必要な水準を長期間下回っている状況」が少子化の定義でもあります。
人口減少による少子化は1970年代から始まった
日本における少子化減少は1970年から現在まで続いています。
15歳~64歳までの人口は約6割となりますが、将来日本を支える14歳までの年齢は約10%。高齢者は約30%程度となり、高齢者人口の割合が14歳以下よりも高いことから世界的に日本は超少子高齢化社会だと言われています。
日本で最も出産数が多かったのは第一次ベビーブームに当たる1949年で269万人です。しかし、翌年の1950年から大きく出生数が下がり、1966年には136万人まで落ちています。
多い時期で269万人という出産数を考えれば、100万人以下に落ちて90万人を下回っている現在の日本の少子化は非常に重大な過渡期を迎えていると考えることができます。
第一次ベビーブームと第二次ベビーブームとの間で出生数が一時的な回復を見せたことがありましたが、それ以降は減少の一途を辿っているのが現状です。そして、本格的に私達が意識するようになったのは、1989年に合計特殊出生率が「1.57」であったことから「1.57ショック」と呼ばれるようになり、少子化現象が注目を集めたことから始まりました。
少子化が止まらない?人口減少する理由
新しい子供が生まれなければ当たり前ですが人口は減少します。しかし、先程説明したように1970年代からは少子化現象は続いています。
では、その原因はなんでしょうか。
原因が分かれば政策次第で人口を増やすことができる可能性はありますが、現在の出生数をみると成功しているようには思えません。
そこで次は出生数が減少している、少子化の原因を紐解いていきたいと思います。
少子化の原因その1「バブル崩壊によるデフレ」
日本はバブル経済が崩壊して以降、ずっと不景気が続いています。
加えてデフレが慢性化することになったため収入が低く、雇用の不安定な男性の未婚率が高くなっています。そして、非正規雇用や育児休業が不可能な職場で働く女性が多くなったことが未婚率の高さに後押しをしました。
経済的基盤や雇用・キャリアの将来の見通しや安定性が子供が生まれることで見通しのつかなくなる可能性があり、未婚化が加速するとともに出生率にも大きく影響を与えています。
もちろん子供がいる女性に配慮した企業もありますが、日本全体で見ると一握りです。
そして長い間職場から離れたり、他の仕事を探さなくてはいけなくなったりと「子供のせい」にしたくはなくても環境を変えなくてはいけない事実から、子供を生むのを先延ばしにしてしまうという人も多くいます。
働くのが好きな女性もいると思いますが、出来れば働かずに子育てしたいと考える人のほうが多くいます。しかし、経済的な問題としてバブル以降は男性の収入低下とともに、子供により良い環境を与えようと思えば女性も働かなくてもいけないというのが現実です。
少子化の原因その2「女性の社会進出」
女性の社会進出も少子化に影響を与えている一因だと言われています。
以下は国際機関の統計から主要先進国女性就業率(OECD2014年)と合計特殊出生率(世界銀行2013年)を比較したものになります。
上記のデータから分かるように、女性の就業率の高い国は比較的合計特殊出生率が高く、ほとんどが2.0以下になります。
2.0を下回ると人口は増えないと言われていますが、世界的に見ても女性が仕事を持って社会に進出すればするほど子供を産まない傾向が強くなり、人口が減っていくことがわかっています。
もちろん、就業率が高くても合計特殊出生率が2.0を超えている国は存在しているので、こういった例から学べば日本も人口の減りを防ぐことができる可能性はあります。
しかし、女性の社会進出と少子化は相関関係があるにも関わらず、子育て支援や体制が十分でないことを考えれば、仕事との両立に阻害する要素があり、子育てのために仕事を離れて所得が減少。
出産・育児という選択に対する価値観に影響を及ぼしている一因でもあるはずです。
その結果、未婚や晩婚、晩産化に繋がっているでは?という声も高まるほど、経済的な問題は出生率、つまり人口の増減に関係していることが分かっています。
少子化の原因その3「若者世代の貯金率の低下
年代 | 平均貯蓄額 |
29歳以下 | 154万8千円 |
30~39歳 | 404万1千円 |
40~49歳 | 652万7千円 |
50~59歳 | 1,051万2千円 |
60~69歳 | 1,339万4千円 |
参照:国民生活基礎調査[各種世帯の所得等の状況](厚生労働省)
上記は年代ごとの平均貯蓄額になります。年齢が上がるにつれて健康な子供が生まれにくくなることを考えれば、20代で産むことベスト。
35歳以降に女性が子供を産む場合では高齢出産といわれますが、20代の貯蓄額は約150万円。
そして、30代は約400万円という金額を見ると、一般的に子供にかかる教育費は大学までで2000万円は必要と言われているので、将来に対して心配が残るのは否めません。
希望する子供をもたない理由で最も多いのは「教育や子育てにお金がかかりすぎること」と国立社会保障・人口問題研究所の夫婦調査で分かっており、経済的な問題が大きいのが現実です。
派遣やアルバイトといった「非正規雇用」が増えて収入が不安定に繋がったこともそうです。ただ、年齢が上がるにつれて貯蓄額が上昇しているのは、年功序列による昇進などで経済的に余裕が出てきるからでしょう。
しかし、その年代になってからでは子供を産むのが非常に難しい状態です。
奨学金で大学からの教育資金は将来の子供が働き始めて自身で返すという手段もありますが、現在の若者の貯蓄率や年収を考えると難しく、奨学金破産と呼ばれる現象も多く発生しています。
その事を考えると、若者の社会的な貧困化は子供を産んだ後の環境や生活の予想から余裕ができるまで「産まない」と考え、産む機会を逃してしまうのも少子化の要因として考えられています。
つまり、30代までに生むのが経済的に困難なほど日本の経済は悪い状態であり、その子供の教育に対して数十年間まともに政策をとってこなかったツケでもあるわけです。
政治家が少子化対策をしてこなかった理由
人口減少には個人の経済的な不安や、そもそも日本全体の不景気が根本的な問題として大きくあります。
それなら「教育にかかる学費や保育園・幼稚園といった子育て施設増加などの子供を産んだあとにかかる問題を政府が手厚くもてなすような対策をすればいいじゃないか」という声も多くあがっています。
しかし、なぜそういった対策では少子化の歯止めが効かないのかは政治家にも問題があるためです。
新型コロナで記憶に新しいと思いますが、政府の対応は後手後手で対策が不十分、しかも逆に現場が混乱するような事態になるようなことも多くありました。
少子化の問題は簡単ではありませんし、教育に対して予算を多く用意すれば別の政策に対してかかっていた予算を削らなくてはいけません。
そして、政治家にとって1番大切な選挙での若者の投票率の低下はもちろん、現在の少子高齢化では高齢者が40%投票すれば、若者全員が投票にいったとしても上回る結果になることはないと政治家は知っているため、高齢者に対して充実した政策を打ち出していきます。
その結果、少子化問題を認識していたとしても高齢者や他の利権を持っている団体に対しての予算を手厚くしてきたため、本来必要な少子化対策の規模が小さく、思うような出生率の増加を実現できなかった現実があります。
人口減少でなぜ経済が悪くなるのか?
日本の人口は2048年には1億人を割って9913万人、2060年には8674万人になると予測されていますが、人口が減るということは労働人口の減少を意味します。
そして、労働力が不足するということは生産力が下がることに繋がるので、モノやサービスを生むための力、「働く人の数」「働く時間数」「生産性」が減り、生産性が劇的に上昇しない限りは生産年齢人口が減るので日本の生産力が低下します。
また、人口が少なることで国内でモノやサービスを売ることが難しくなります。
そうなると海外の企業は日本を市場外として考えますし、国内企業も海外を中心としたサービスやモノ、人材を使うようになるため更に日本の経済力は落ちることなります。
つまり、「売り手」が単純に減ってしまうことが経済にも影響が及ぼすわけです。
現在でも国内企業の多くが海外市場に目を向けてグローバル化を加速させていますが、少子高齢化がさらに進むと国内のビジネス対象も若者から高齢者に変わります。
各企業も利益が落ちるのは労働者を守るためにも避けたいので、若手の採用人数を減らしたり、海外に支社を設けて利益ではなく、外に出る損失を抑えるような意向が強まれば、日本で働きたくても働けない事態にもなりかねません。
忘れてはいけない年金等の制度について
少子化を受けて人口が現象している日本ですが、加えて高齢者の方が多いということで社会保障制度・公的年金制度にも亀裂が入ります。
公的年金制度や公的医療保険(健康保険)といった制度は、人口が増加して経済が成長途中に作られているので、人口が増えて経済が成長し続けることを前提にしています。
つまり、経済の成長も人口の増加もどちらも見込めない場合には年金の支給開始年齢の引き上げや支給額の下がる可能性があるわけです。
国民年金制度が創設された1961年の高齢化率は6%でしたが、現在は約30%近くになり、現在の年金制度は現役世代が払い込む保険料を高齢者の年金として支払う制度になっています。
これは少子高齢化によって保険料を収める現役世代が減り、年金を受取る高齢者が増えることになるので、資金めぐりが厳しくなることから現役世代(65歳以下)への負担が大きくなることを意味しています。
人口が過度に多すぎても問題
少子化による人口減少が取り上げられることが多い日本ですが、1970年代は「増えすぎる人口を抑える」という議論のほうが多くなされていました。
今考えると信じられないかもしれませんが、本格的に少子化現象が生まれるまでは将来の人口に対して心配するような声もほとんどなかったからです。
1974年時点で厚生省の諮問機関である人口問題審議会では、人口抑制が必要だという主張さえありました。
当時はニュースにもなっていましたが、人口が増えすぎることで石油などの資金不足や食料不足になるという話が取り上げられていましたし、「子供が多いのは良くない」ということで理想の子供は2人であるという風潮があったほどです。
ただ、その後は少子化が進み、高齢者の健康寿命が伸びたことで少子高齢化になって現在へと至ります。
しかし、単純に同じ1億人でも若者の割合が多い人口と高齢者が多い人口では、前者のほうが経済は上手く回ります。
何事も需要と供給、バランスが大切です。
止まらない少子化と人口減少による影響
日本の将来に対して政府の方針は「年次経済財政報告」等を見ることで具体的に確認することができます。
ただ、現状は人口減少からくる不景気や現役世代への負担、その結果発生する少子化の問題がループのような形で現在まで続いてます。
今から女性が一人当たり3人子供を産んだとして少子化が止められないという状態で今後も出生数の減少は続いていくと予測されていますが、結婚や出産、子育ては個人の自由で強制ではありません。
しかし、「産みたい」「育てたい」と考えていても出来ない経済的理由がある人も多くいます。
なので、結婚したい人や安心して出産・子育てを行える環境を将来のために個人で作っておくことも非常に大切であるという認識を持って、今から困らないように考えておきましょう。
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