ローン特約とは?不動産売買契約でトラブルを防ぐ融資特約の注意点

188 views
ローン特約とは?不動産売買契約でトラブルを防ぐ融資特約の注意点

不動産投資で1,000万円以上の物件を現金一括で購入するという人は非常に少ないはずです。おそらく、多く人が不動産投資を行なう際には購入するための資金を金融機関から借り入れる形で考えていると思います。

特に日本では、超低金利の時代が長い間続いていることもあり、ローン金利と賃貸収入の利回りの差が利用して不動産投資を行なう人も多くいます。

 

ただ、ローンをして不動産を購入することを前提とした場合、融資を受けられなければ不動産の購入自体が不可能になってしまう場合もあるため注意が必要です。そのような融資を受けることできなくなった場合に不動産の売買契約を白紙にすることができるのが「ローン特約(融資特約)」です。

 

これはローン前提で不動産を購入する際に化益に盛り込む、「買主が融資を受けられなくなった場合に契約を白紙に戻せる」という条項で、売買契約後に金融機関の融資承認が通らず、購入資金を調達できなくなった際に備えるための特約であり、買主を保護するためのものですが、ローン特約の文言を巡って売主と買主の間でトラブルが発生することも少なくありません。

 

今回の記事では、不動産投資を考えている人が物件購入時にトラブルに巻き込まれないためのローン特約に関するトラブル事例と事前に把握するべき注意点について解説していきたいと思います。

 

ローン特約とは何?

ローン特約

ローン特約とは、冒頭でも説明した通り「不動産を購入する際に融資が受けられないとなった状況で売買契約を解除できる」という特約になります。

不動産投資などでは、基本的には戸建てやアパート、マンションと様々な物件種別がありますが、高額になることが多いため、買主である投資家は金融機関の融資を利用して購入するのが一般的になっています。ただ、売買契約の締結後に想定していたローンを組むことができなくなった場合、購入資金が足りないにも関わらず、購入のための契約を済ませている現状が発生しています。

 

こういった売買契約の締結後にローンを組めなくなってしまうことは決して珍しいことではありませんが、この際に買主を保護するのがローン特約であり、「金融機関から融資を受けることを前提に売買契約した際、融資の一部や全額が承認されなければ無条件で売買契約を解除することができる」という旨の特約になっています。

つまり、ローン特約があることでもしも融資が通らない状態になったとしても契約が解除された場合には買主が売主に支払った手付金は全額返金されることになり、違約金も発生しないということです。

 

このローン特約があるおかげで、不動産投資を行なうことを検討しているものの、融資を受けられるか分からないという人も安心してローン利用をすることができます。

不動産を購入する際、融資を受けるためには審査が発生しますが、これは金融機関が融資を申込んだ人の年収や属性などを見て判断し、「事前審査→売買契約→本審査」といった3つの手順を踏むため、事前審査が金融機関の支店で通過しても、本部での本審査で承認が下りないというケースは少なくありません。

 

こういったことから、不動産売買の契約時にはローン特約を結ぶことが一般的になっていますが、ローン特約には大きく2通りあります。どのような内容の契約になっており、詳細な条件がどう定められているのかを見落としがないようにも、どのローン特約に当てはまるなのかを確認が必要です。

 

解除権留保型

「解除権保留型のローン特約」は、融資が承認されずに不動産を購入する資金が足りなくなった場合、買主に特約の解除権を与える特約のことをいいます。つまり買主が解除を申し込まない限りは契約解除の効力は生じないことになります。

 

契約解除の際には解除の意思表示が必要となりますのが、1日でも解除通告期限を経過してしまうと契約解除ができないため注意しておきましょう。また、この解除権保留型には解除を申し込みない限りは売買契約の効力が継続するため、予定していた金融機関で融資が受けられなくても他のローン先を探すことが可能というメリットがあります。

 

ローン特約の内容は売主と買主の話し合いで決めることが可能となっていますが、一般的に売主である業者が仲介業者が契約書を用意する際にローン特約の条文を作成することが多くなっているため、事前にしっかりと確認しておくことが大切です。

解除条件型

「解除条件型のローン特約」は、融資の承認が下りなかった場合に売買契約が自動的に白紙解除になる特約ことをいいます。この「解除条件型」は全国宅地建物取引業協会連合会の指定契約書に採用されており、「解除保留型」と違って買主から契約解除の意思表示をする必要がありません。

 

ただ、「解除保留型」と違って別の金融機関に融資を検討していたとしても売買契約は新しく必要になるため、他の金融機関でローン購入をする場合、新しい売買契約を締結し直す必要があるため注意しておきましょう。

期限が経過すると契約自体の効力が消滅してしまうので、それまでの相談や手間が無駄になることもあり、継続する場合には期限前に「売買契約変更合意書」を交わすことがポイントになります。

ローン特約のメリット

ローン特約のメリット

ここまでの内容から改めてローン特約のメリットとなる部分を説明したいと思います。

金融機関の融資を前提に不動産を購入しようと考えていた人からみれば、ローンの審査が落ちることで購入資金が調達できなくなってしまうため、不動産の購入が不可能になります。しかし、普通に考えれば契約した後に「ローンの審査に落ちたので購入をやめます」ということは無条件にできません。

 

これは買主側の都合だからこそですが、こういった契約の場合には売主に支払った手付金が返金されなかったり、違約金を求められるなんてことも本来はあり得ます。ローンの審査に落ちただけではなく、手付放棄や違約金の支払いなんて事態が発生すれば、利益となるものは全くないのに金銭的負担だけが残り、不動産投資におけるデメリットは非常に大きいため行なう人がかなり減るはずです。

 

しかし、ローン特約を行なうことで不動産投資を検討している買主を保護することが可能になり、「もしかしたら…」なんて不安を払拭することができるため、ローン特約があるのとないのとでは大きな差です。

 

特に手付金などは売買代金の10%程度を支払うことが多く、投資物件の金額が高ければそれだけの損失がなにも得られるものがないのに発生するため、このローン特約というのものが如何に大きなメリットを持っているのかということが分かるはずです。

 

ローン特約でも契約解除できない場合もある

ローン特約を締結することは、万が一の可能性を考えて契約を白紙にするための条項になります。前途でも説明したように、メリットは買主からみても安心できますが、「解除権保留型」のように必ずしも契約を解除することができるわけではないので注意しておきましょう。

ローン特約では無条件に契約を解除することができないケースがあり、これは当然ですが契約書の内容によります。つまり、ローン特約に融資条件などを明確に記載していなければ無条件に解除ができなくなるということです。

 

そういったことにならないためにも、ローン特約の内容を正しく理解しておかなくてはいけません。大切なのは自身の認識で判断せずに売主との認識にズレがないように確認することです。

 

特に「解除条件型」なのか「解除権保留型」なのか不明な場合もあると思いますので、正しく判断できるように確認しておくことは非常に重要で、条項の記載が曖昧であった場合にはトラブルに発展してしまうケースもあるため注意が必要です。

 

ローン特約で事前に確認しておくべき重要事項

ローン特約は内容によって効果が異なるため、契約前に必ず内容をよく読んで特約部分に注意しておくことが重要になります。そして、ローン特約で事前に確認しておくべきポイントは以下の4つの事項になります。

  1. 融資申込金融機関
  2. 融資金額・金利・借入期間
  3. 融資が承認までの期間
  4. 融資が承認されなかった場合の対応策

上記の項目がもしも記載していない場合には、希望している金融機関や条件で審査が承認されなかった場合、契約解除にならない場合があるため注意しておきましょう。

 

また、上記の4つ以外にも「ローン特約による解除の期日」と「契約解除の意思表示の方法」も併せて明確に設定しておくことが重要です。それは、口頭では解除の意思表示が上手く売主に伝わらない可能性があるためです。こういった場合には解除の意思表示の証拠を残すためにも郵送がオススメです。

仲介業者を通している場合、仲介業者にだけ連絡するのでは不十分な可能性は否定できないため、確実に契約解除の意思が伝わるように書面での直接通知が無難となります。

 

また、1日でも解除通知の期限を過ぎてしまえば契約解除が不可能になってしまうため、ローン特約解除の期日は明確に知っておくことを忘れずにいましょう。

 

ローン特約で失敗しないための注意点

ローン特約の注意点

ローン特約で事前に把握しておくべき事項を紹介しましたが、次はその事項内容に関しての注意点をお伝えしたいと思います。ローン特約があることで安心して不動産の購入を検討できますが、記載内容に前途で解説した事項があったとしても、ほんのわずかな見落としで大きな損失を生むこともあります。

 

「ローン特約をよく確認して把握しておけばよかった」と後悔しないためにも、事項内容で記載がないと失敗してしまうことになる注意点を忘れずに知っておきましょう。

 

注意点①融資申込金融機関・金額の記載がない

融資申込金融機関の記載がない場合、融資の承認が通りやすいノンバンクが紹介され、希望する内容よりも悪条件で融資を受ける可能性があります。また、こういった場合には解約ができずに引き渡しを受けざる得ない状況に陥る可能性も考えられるので注意が必要です。

 

また、融資金額の記載がない場合には、融資される金額が一部だけであったとしてもローン特約を解除できなくなるため気をつける必要があります。融資が承認されれば契約成立ということになれば、希望額よりも融資額が下回った場合に実費で捻出する事になりかねません。

 

仮に2000万円の不動産を検討して融資を希望しても、1000万円の融資承認しか下りなければ用意できる資金と購入金額に1000万円の乖離があるにも関わらず契約が成立してしまいます。また、仮に解除できたとしても既に支払っている手付金を放棄することで解除になるので、事前にローン特約の把握と必要に応じた項目の追加を交渉することも必要です。

 

注意点②融資承認までの期間

融資承認までの期間が記載ない場合も注意が必要です。一般的に売買契約締結から2週間〜1ヶ月程度の期間を定めることが多くなっていますが、金融機関のローン本審査は想定よりも時間がかかることが多く、余裕を持って契約するためにも少し長めに設定するのがオススメです。

 

解除期日を延長することもできますが、それは決算期日までに融資承認が下りずに決算期日を延長することになった場合であり、この場合には「決算期日の延長=解除期限の延長」ということになるわけではありません。ローン特約による解除期日の延長もしなければ、手付放棄や違約金の支払うが必要になる場合があるので注意しましょう。

 

また、もしも融資額が想定よりも少なかったり、他の融資先や自己都合で契約を解除したい場合でも、「解除権保有型」で「○年○月○日を解除期限とする」という条件がつけられていれば、期日までの売り主に対して解除権を行使しなくてはいけないため解除の意思表示がギリギリになったり、期日を過ぎてしまう可能性があるためです。

注意点③融資が通らなかった場合の対応策

不動産投資などで融資を受ける場合、当然ですが融資が下りなかった場合も考えておかなくてはいけません。ここで大切なのは、「解除条件型」なのか「解除権保留型」なのかをしっかりと定めておくということです。ローン特約によって契約解除となる場合には、手付金や無利子で全額返還する旨を明確に記載しておくことも忘れに覚えておきましょう。

 

注意点④契約解除の意思表示のやり方

ローン特約による契約解除では、「解除権保留型」のように解除する旨をしっかりと相手に伝えなければいけない場合があります。そのため、口頭での意思表示では上手く売主に伝わらない場合もあるため注意が必要です。

期日内に意思表示をしたという証拠を残すためにも郵送がオススメですが、メールやFAXなど形として残るものも良いでしょう。また、送信後に電話での確認もすれば間違いなく解除の意思表示として伝わるはずですので、仲介業者だけの伝えるのではなく、売り主にも必ず伝わる形で通知することが重要となります。

 

実際にあったローン特約に関するトラブル事例

ローン特約のトラブル

ローン特約による注意点をお伝えしましたが、次は実際に起こったトラブルの事例についても紹介したいと思います。契約書などは人によって馴染みがない人も多く、専門の仲介業者が言っているのであれば「そうなのだろう…」と納得してしまう傾向にありますが、買主がいくら気をつけていてもトラブルに発展してしまうこともあるため注意が必要です。

 

ローン特約による注意点だけではなく、どのような部分でトラブルになっているのかも知り、出来る限りトラブルを未然に防げるようにしておきましょう。

事例①仲介業者の誤った助言によるトラブル

ローン特約によるトラブルは、何も買主と売り主だけの間で起こるものとは限りません。今回の例では、売主業者、または仲介業者によって発生しています。

事前審査では融資が可能と判断されていたものの、本審査で承認が下りずにいた際に「本審査が通らなかったのは買主の責任なためローン解除はできない」ということでトラブルに発展した例があります。

 

ローン特約には、契約解除期日までであれば買主は契約を解除できる売買契約を締結していましたが、買主には過去に病歴があり、団体信用生命保険(団信)に加入できないため都銀などの金融機関では病歴によってローンを断られることもあります。

しかし、仲介業者は本審査の承認が下りなかったのは、「事前審査において病歴を告知しなかった買主に責任があるため解除はできず、買主でも融資を受けることができる金融機関を探すのでそちらに申し込むように」と契約解除を断るということがありました。

 

しかし、事前審査が通っても本審査の承認が通らないことは、審査内容が異なることから「買主の責任」になるわけではありません。また、一般の買主は自身の病歴が団信申込みの否認事由になるかは知らないのが普通です。

団信の申込み審査は本審査で行われるため、事前審査で病歴を告知しないことがローン解除できないことに繋がることはなく、今回の場合には一方的に断言する仲介業者側に問題がある例となります。

 

その後、行政などに買主は相談し、ローン解除を内容証明郵便を行なったことで解除が成立しました。しかし、今回の場合のように仲介業者がローン解除可能にも関わらず買主に手付解除をさせたとなれば、仲介業者に損害責任が生じることもあります。

 

ローン特約については、何も買主と売主だけではなく仲介業者による誤った助言でも発生するため、内容を正確に把握したうえでしっかりと対応できるようにしておきましょう。

 

事例②ローン不成立以外の自己都合で売買契約を破棄したい

例えローンの審査が通ったとしても、場合によっては不動産の購入を取りやめたいことはあるはずです。それは諸経費が想定以上に発生したり、本来使えるはずだった資金が予期せぬ出来事で使えなったりと様々です。

 

しかし、こういった理由で不動産売買の契約を破棄する場合には、自己都合での解約なためローン特約が適用されないことになります。今回の例では、買主の諸事情により不動産の購入を取りやめたいと考えが変わりましたが、ローン特約で解除できるのは、あくまでも金融機関で審査が下りなかった場合のみです。

 

また、買主が転勤といった仕事の都合であっても自己都合にあたるためローン特約は適応されず、それを知らずにトラブルに発展することが少なからずあります。返済に影響を与えるような属性の変更はトラブルになりやすいため、注意しておく必要があります。

 

事例③ローン申込みへの虚偽申請

融資額を少しでも多くしたり、ローン審査を承認させるために売主業者や仲介業者が買主に事実と異なる告知をするような指示したトラブルの事例もあります。ただ、これは金融機関側でも問題があり、買主の年収を大幅に超える融資額を承認していたことも不動産業界では多々あり話題になったことがあります。

 

しかし、こういった虚偽の申込みの場合には、告知義務違反にあたるので融資契約の解除やローンの一括返済を求められることもあります。また、仲介業者だけではなく、買主からもローンの承認を通すために事実と異なることを申請する人もおり、金融機関側に損害賠償を負うという事案も過去に発生しています。

 

いくら購入したい不動産がある場合でも、虚偽の申請を行わないように注意しておきましょう。実際にこの例は、過去に多く横行していたこともあり、意外と仲介業者や買主も悪いことだと認識しつつも気にしない人は少なくありません。

 

ローン特約の趣旨は正しく理解しておく

今回の記事ではローン特約について解説しましたが、いくら気になった不動産があっても先走って資金計画や売買契約の把握を疎かにしてしまうことは危険です。決断力も大切なのは事実ですが、大きい金額を投資するのですから、ローン特約を含む不動産売買契約は契約する前に隅々まで読み、冷静に紹介した条項や条件をチェックしておくことが大切です。

 

東京地判などは、ローン特約の趣旨を「住宅ローン融資を受けて住宅を購入する買主が、ローンを組めなかった場合に、手付金が没収される等となることは買主に極めて酷な事態となることから、買主予定の金融機関等からの融資調達が買主の責めに帰さない事由によりできなかった場合には、買主保護のため売買契約解除を認めるというのがローン特約の趣旨である」と解しています。

ローン特約がどのようなものかを正しく理解していなければ、売主や仲介業者と記載内容が不十分でトラブルになってしまうこともあり得ますので、必要な情報をしっかりと伝えたうえで自身を守れる内容を契約書に反映させるように心がけておきましょう。

Leave A Message

*
*
* (公開されません)

Comment On Facebook