不動産投資では投資物件を選ぶ際や運用する時に考える指標がありますが、その中で最も重要な指標が返済比率です。以前不動産投資で、修繕費や固定資産税など諸々の経費を引いた実質利回りを計算することが失敗しないためには大切だとお伝えしました。
実質利回りは、実際に投資物件で発生する収益を具体的に知ることができるため大切ではありますが、実際に物件を契約すれば家賃収益からローンの返済にあてる分のお金も捻出しなければなりません。不動産投資では大きな融資額を得られたことで満足し、その後の返済についてあまり考えていない人も多くいます。
ただ、実際に返済を長期間やっていると、空室リスクや修繕リスクといった事前に予測していたリスクも発生するでしょう。
そのときに返済額の大きさからリスクに対応する資金力が不足し、「こんなはずじゃなかった」とならないためにも、家賃収入に対して返済額をどれぐらいにすれば良いのか?というのを知っておくのは重要です。
この返済比率を考えて事前に発生するリスクを考慮すれば、利益が残るように運用計画を考えることもでき、返済が滞ってしまわないように対処済みなので余裕も生まれるはずです。
逆に返済比率をあまり意識せずに無理な融資条件で物件を契約すれば、ローン返済に家賃収入が消えて手元に残るお金が少なかったり、退去や修繕などによって発生する原状回復に費用がかかりすぎて得られる利益が飛ぶ可能性も考えられます。
今回の記事では、長期的な運用していく不動産投資において、返済が苦しくならずに手元に利益を残せるように、返済比率の目安や不動産投資の安全性を保つための返済ラインについて解説していきたいと思います。
返済比率とは
不動産投資でいう返済比率は「家賃収入に対する返済額の割合」のことを言います。返済比率は、不動産投資によって得られる家賃収入とローン返済のバランスによる安全性を判断する指標として重要視されています。
重要視されている理由は、毎月のキャッシュフローがどのようになっているのか理解しやすく、長期的に行うローンの返済に自己資産が圧迫されないか把握することができるためです。
家賃収益が高く、利回りが良い状態だったとしても、返済比率が高いのであれば手元に残る利益は当然減ります。つまり、収益次第で起こるかもしれない赤字や返済が滞ってしまうという事態が発生してしまう可能性が高くなるわけです。
しかし、返済比率が低いのであれば手元に残る資金は多くなります。これは、突発的な発生する修繕リスクや空室によるリスクに対応しやすく、リスクに備えた資産運用が可能になるため、安全性の高い運用を不動産投資で行えるということになります。
返済比率の求め方
返済比率を求める際には、「毎月のローン返済額」と「満室時の毎月の家賃収入」の2つの金額が必要です。
まず、毎月の融資返済額については「借入金額」「返済期間」「金利」の3つを決めておきましょう。既に不動産投資を行なっている人は、融資を受ける際の契約書を確認すれば分かるはずです。まだ検討していて詳しく分からないという人は、不動産会社などから大凡で良いので想定融資条件を聞いておくこと分かります。
毎月の家賃収入に関しては、物件の紹介時に貰うことができる概要書か付属資料のレントロール(賃貸借条件を一覧表にしたもの)に記載があるはずです。
これら2つの値を活用して、以下のように計算することで返済比率を求めることができます。
「毎月のローン返済額」÷「満室時の家賃収入」=返済比率(%) |
ここで抑えておくべきポイントとして、返済比率はあくまで投資物件が満室で経営しているという前提があるということです。また、契約まであれば金融機関への返済期間や金利も確定ではありませんので、賃貸が下がる可能性も考えれます。
空室が発生するリスクや地域がら家賃が下がる可能性も考慮しておき、ゆとりを持った計算をしておくと後々困らない返済が行えるので、金融機関などが提供している返済シュミレーターを利用して計算してみましょう。
不動産投資で目安とする返済比率は「50%」
返済比率が低いということは、不動産投資では安全性が高いことを意味しています。逆に返済比率が高ければ安全性が低いわけですので、修繕などの突発的な費用が発生すると赤字になりやすく注意が必要です。
不動産投資において理想的な返済比率は40%といわれていますが、そのような優良物件が市場に出回ることが少ないため、一般的には50%が安全性を高くする返済比率の目安だといわれています。
金融機関へのローン返済以外にも「リフォーム」「管理費」「修繕積立金」「固定資産税」「火災などの保険」といった様々な費用が発生しますが、それらの費用に対応しながら利益を手元に残すのは、50%の返済比率であればバランスが良いというわけです。
それでは、次は実際に返済比率が目安である50%である場合と、それ以外で手元に残る利益がどのように変わるのかを見ていきたいと思います。
返済比率別のシミュレーションで分かる手残りの利益
返済比率は低ければ良いですが、あなたが見つけた物件候補が都合良く返済比率を低くできるかは分かりません。そのため、返済比率が高い場合や低い場合、どの程度手元にお金が残るのかを以下の3つでシミュレーションしてみたいと思います。
- 返済比率40%
- 返済比率50%
- 返済比率60%
物件価格や利回りは地域や物件タイプによって異なりますが、今回は「物件価格1億円」「利回り8%」「賃貸料80万円」「空室率15%」「経費率20%」の5つの条件で考えてみるので、一緒に考えてみましょう。
返済比率が40%の場合
返済比率が不動産投資で理想的といわれている40%の場合には、投資としての安全性は高くなり、実際に計算してみると以下のようになります。
項目 | 金額 |
---|---|
満室想定賃料収入/月 | 80万円 |
空室による損失/月(空室率15%) | -12万円 |
経費/月(経費率20%) | -16万円 |
ローン返済/月(返済比率40%) | -32万円 |
手残り/月 | 20万円 |
毎月残る金額は20万円と、新卒サラリーマンの手取り並の金額が残ることが分かります。この程度の利益を不動産投資で得られればかなり大きい資産を作れますし、老後などの将来的に必要な資金を作るのに困らないでしょう。また、万が一物件の問題が生じても対応できるだけの資金力を身につけることができるはずです。
ただ、返済比率を40%にするには自己資金を投じて不動産投資を行うなどの対策が必要になり、あくまで理想的な返済比率として参考にしてみましょう。
返済比率が50%の場合
次は標準的な目安となる返済率が50%の場合です。50%は一般的ではありますが、多少の空室や修繕が発生しても赤字にならない程度のキャッシュフローを得られることが以下から分かります。
項目 | 金額 |
---|---|
満室想定賃料収入/月 | 80万円 |
空室による損失/月(空室率15%) | -12万円 |
経費/月(経費率20%) | -16万円 |
ローン返済/月(返済比率50%) | -40万円 |
手残り/月 | 12万円 |
返済比率を50%にしてみると、40%の場合と比べれば手残り金は減ります。8万円の差額が発生していることが分かりますが、それでも毎月12万円も自由に使えるお金があると考えるとかなり大きいはずです。
この手残り金すべてを将来的に発生するリスクに備えるために有効活用するのもいいですし、一部を貯めて残りは自由に使ってもいいでしょう。それだけの資金・気持ちの余裕が返済比率50%ではまだ生まれているのが分かります。
返済比率が60%の場合
最後は返済比率が60%の場合のシミュレーションです。返済比率60%は以下の内容を見てみると、不動産投資で利益やリスクに備えることができるギリギリのラインだといってもいいかもしれません。ただ、不動産投資では目的や条件次第で変わりますので、その点を忘れてはいけません。
項目 | 金額 |
---|---|
満室想定賃料収入/月 | 80万円 |
空室による損失/月(空室率15%) | -12万円 |
経費/月(経費率20%) | -16万円 |
ローン返済/月(返済比率60%) | -48万円 |
手残り/月 | 4万円 |
最終的に残る手残り金は4万円となり、先程の40%と50%と比較してみると少ないと感じるかもしれません。しかし、利益を得ることを不動産投資で成功と考えると、返済比率60%が決して失敗だということでもありません。
もちろん、先程のシミュレーションと比べると余裕はなくなりますが、この残りの金額で将来のリスクに備えることも可能ですし、別の運用や趣味などの娯楽に使うことも充分可能です。ただ、これだけ残る資金が少ないと、今の状態から1室退去が発生しただけで原状回復費用や新しい入居者募集の費用でなくなってしまいますので、目安となる50%で物件を購入するのが最も無難でしょう。
不動産投資で返済比率を下げる5つの方法
返済比率が高ければ毎月自由に使えるお金は少なく、追加で空室や修繕が発生すればキャッシュフローが赤字に転じてしまいます。そんな安全性が低い状態では、長期的な運用を行う不動産投資で不安や焦りと戦っていくことになります。
そこで、次は返済比率を下げるための方法について解説していきたいと思います。返済比率を左右している主な要因は「融資金額」「返済期間」「金利」になりますので、基本的にはこの3つの要因への対処方法次第になります。
その返済比率を下がるための具体的な方法は、基本的に以下になります。
- 高利回りの投資物件を購入する
- 自己資金を入れて返済額を減額する
- 融資期間を延長する
- 金利が低い金融機関にする
- 繰り上げ返済を行う
それぞれ「融資金額」「返済期間」「金利」に関係している上記5つは、返済比率を下げるために必要になるので、これから説明する内容で参考に考えてみましょう。
①高利回りの投資物件を購入する
返済比率を下げる単純な方法として最初に紹介するのは、高利回りの投資物件を購入することです。簡単にいえば利回りが高いことで得られる家賃収益を多くしながらも、返済額を小さくすることが可能になるためです。つまり、高い利回りがあるため、同じ返済比率でも多く手残りのお金を得ることができるわけです。
例えばですが、先程解説した物件価格が1億円で利回りが8%の場合、返済比率が60%では手残り金は4万円でした。しかし、もしも利回りが8%ではなく、10%であれば返済比率は以下のようになります。
項目 | 金額 |
---|---|
満室想定賃料収入/月 | 100万円 |
空室による損失/月(空室率15%) | -12万円 |
経費/月(経費率20%) | -16万円 |
ローン返済/月(返済比率48%) | -48万円 |
手残り/月 | 24万円 |
利回りが8%から10%になることで最終的には24万円と20万円残る資金が増え、返済比率は48%まで下げることができました。しかし、実際に高利回りの物件を取得するのは難しいのが実情です。もちろん、物件のタイプによっては平均利回りが高いため高利回りを得やすいこともありますが、地域によって物件価格が下落してしまったり、修繕費用が頻繁にかかってしまうこともありますので、利回りが高い物件というのはなかなか見つかりません。
仮に見つかっても、違法建築や旧耐震、市街化調整区域などの問題点を抱えている可能性があるため注意する必要があります。
不動産投資は長期的な運用ですので、物件選びを根気よく続けて探すのもいいでしょう。ただ、この方法は不動産投資において最も難しいポイントでもありますので、他の4つの方法で対応していく方向で検討してみましょう。
②自己資金を入れて返済額を減額する
2つ目の方法は、物件を購入する際の頭金を自己資金の金額を多くすることで返済額を減らす方法です。こうすることで返済額が減るため、結果的に融資金額を減らすことに繋がり返済比率が下がるというわけです。
不動産投資では、頭金以外にも自己資金が必要な初期費用はありますが、その際に必要になる経費もローンで支払うのではなく、自己資金で賄うことができれば、さらに返済比率は下げられます。
基本的に物件価格の1割〜2割程度を自己資金として用意することが不動産投資では多くなっていますが、優良物件というのはそうすぐに見つかるものでもありませんので、物件を探している間に少しでも自己資金を増やして毎月の返済額を少なくすることを考えてみましょう。
ただ、候補として考えている物件によっては購入価格が高くなってしまうこともあるため、用意できる自己資金の金額と投資の安全性のバランスを考えておくことが重要です。自己資金の投入は返済比率を下げるのに役立つのは事実ですが、不動産投資のメリットであるレバレッジ効果が小さくなるため、ある程度余裕を持った自己資金を保有したままにすることも意識しておきましょう。
③融資期間を延長する
3つ目の方法は、融資期間を伸ばすことで月々の返済比率を下げる方法です。毎月の返済額は金融機関から融資してもらう際の「融資金額」「融資期間」「金利」の3つによって大まかに決まります。
この「融資期間」を長くすることは、より多くの時間をかけてローンの返済を行うことになるので、その分毎月の返済額は少なくて済むというわけです。融資期間については金融機関ごとの融資審査によって左右されますが、基本的の以下の2つの項目が考慮されて決まる流れが多くなっています。
- 購入する物件の属性
- 購入する投資家の属性
「購入する物件の属性」は、物件の築年数によって融資期間が左右されますが、築年数だけで融資期間が決まるわけではなく、その物件がリフォームされていたり、新築物件で住宅性能表示を取得していたりなどで変化します。
「購入する投資家の属性」では、購入者の年収や保有している金融資産の額などによって左右されます。当然ですが、年収も高く保有資産が多い方が返済における滞納も少ないと見なされ、融資期間を長く設定できます。ただ、返済期間を長くする場合には返済総額が大きくなることになるので注意しておきましょう。
この返済比率を下げる方法は誰にでもできるわけではありませんので、返済期間を長くしたいと希望しても実現するとは限りません。そのため、融資実行後に返済期間の見直しを考える際には借り換えを検討するのも1つの手段です。
④金利が低い金融機関にする
4つ目の方法は、金利を低くすることで返済額を少なくする方法です。金利についても融資期間と同様に購入する物件や投資家の属性によって変わります。また、さまざまな金融機関でローンの金利を調べ、最も低いところに申し込むというのも1つの方法です。
また、既に不動産ローンを違う物件で行なっていたり、数年に渡って返済している実績がある、あるいは所有している金融資産が多い場合には金利の交渉を金融機関にしてみるのもいいでしょう。金融機関によっては、「他の金融機関に取られるなら金利を安くしてでも利用して欲しい」と判断することもあるので、他の金融機関への乗り換えをする前提で金融機関と交渉すると、金利が下がる可能性もあります。
⑤繰り上げ返済を行う
最後の方法は、繰り上げ返済を行うことで返済比率を下げる方法です。繰り上げ返済とは、毎月返済している額にさらに上乗せして返済するする方法で、2つの方法があります。
- 期間短縮型
- 返済額軽減型
「期間短縮型」の繰り上げ返済を行なった場合には、毎月の返済額に変化はありませんが、短縮された期間に予定されていた利息が軽減されることになります。そして、同時期に同金額を繰り上げ返済することで、「期間短縮型」の方が「返済額軽減型」よりも利息が減る効果がありますが、返済比率を下げる効果はこちらにはありません。
「返済額軽減型」は返済期間は変わらずに毎月の返済額を落とすことができます。本来の返済では返済する金額に利息分も含まれることになりますが、「返済額軽減型」の繰り上げ返済を行なった場合には返済額がすべて元本の返済にあてられるので支払う利息を減らす効果が期待できます。
返済額を下げることができるため、キャッシュフローに余裕が生まれて返済比率が下がるわけです。
ただ、注意点として繰り上げ返済は余剰資金がある状態がなければ使えない方法でもあり、金融機関に手数料を支払うことになるので気をつけておきましょう。
繰り上げ返済のポイントとしては、繰り上げ返済は購入後にしか出来ない方法でもあり、家賃収入や経営後に資金の余裕が生まれて行わなければ効果が薄いということです。繰り上げ返済をする余剰心があるのなら新たに不動産を所有する人や他の投資をする人もいるため、保有している金融資産と相談しながらポートフォリオを考えてみるのがいいでしょう。
返済比率を考える時の注意点
返済比率は不動産投資では最も重要とされている指標の1つですが、この返済比率は常に変化するので囚われすぎないように注意しておきましょう。物件を実際に購入する前に算出した返済比率と、購入した後での返済比率は変わることも珍しくありません。
ここまでの内容で「金利」や「空室」次第で収益が減ったりなど、様々な要因によって返済比率が変わると分かったはずですので、あくまでも返済比率は目安だということを忘れずに覚えておきましょう。
想定外なことも長い時間が経てば発生する可能性がありますので、その点を考慮しながら安全性を保った不動産投資を行うのが重要です。また、返済比率以外にも「物件の入居率」を上げたり、「経費」を少なくすることで安全性は高くすることはできます。
返済比率は低ければ良いのは事実ですが、返済比率を含めて物件を選ぶ際の条件を厳しくし過ぎては、いつまでも購入できないことになってしまうので、ある程度の妥協点を考えて運用計画をたてることで柔軟な投資が対応が可能となります。
まとめ
不動産投資の最終的な出口戦略を考えるうえで、返済比率を参考にすることができればポートフォリオのバランスや長期的な資産構築で失敗する確率を軽減する事ができます。また、具体的な計画を考える時に不明部分や予測が難しい金額も明確になりやすくなるはずです。
ただ、返済比率はあくまでも目安なので、50%を基準として返済が滞ってしまわないことをまず最初の目標にしておき、その次に確実に利益が継続出来る状況、そしてリスクに対応できる不動産利益、最終的に資産運用をする理由や目標に添える形で終わらせるのが理想です。
返済比率が低いほど不動産投資での安全性は向上しますが、実際に返済比率を計算してみると、今保有している物件や候補物件で返済比率が低くなく、不安に感じる人もいるかもしれません。しかし、もしも「ローン返済が滞る=失敗」と定義するのであれば、不動産投資での延滞率は約2%〜4%程度になるので、よほど無計画でなければ失敗する可能性も高くないといえます。
今回解説した返済比率という指標を使って、試しにあなたが良いと感じた投資物件の返済比率を計算し、運用計画を考えてみてください。
そうすることで、実際の返済計画や得られる不動産利益をイメージしやすく、具体的に発生するかもしれないリスクにも備えやすいため、気持ちに大きなゆとりを持てるようになるはずです。
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